IBSを畳んでから約半年間、さらに苦しい日々が続きました。
ただ、「会社」という組織を諦めた事で、精神的な負担が減り、ただ黙々と働く事ができるようになりました。
そんなある日、過去にM&Aにてお手伝いをした事のあるお客様(以下、「K社長」と記載します。)とお会いして個人事業となった事をお伝えしたところ、思わぬ提案をいただきました。
「土居ちゃんは、サラリーマン向きな性格じゃないし、今更サラリーマンに戻る事も無理でしょ。個人事業でコツコツやってたって、返せるお金も返せないじゃん。もし良かったら、もう一度うちの会社の売却やってみない?」
ここで、3つの説明が必要です。
K社長は、過去に一度会社を売却していました。
しかし、K社長の会社を買収した会社が、買収から数年後に業績不振となってしまい、資金繰りに窮していました。
男気のあるK社長は、売った時の資金を使って売った会社を自ら買い戻し、買収した会社を助けるとともに、再び取り戻した会社の代表者として経営していました。
それが、上記発言の「もう一度」という意味となります。
私は、K社長とM&A以外の事でも取引をしていました。
主に、私のところへご相談に来られる不動産会社の支援を、K社長の資金を拠出いただいて不動産共同事業をいくつも行いました。
何度となく、K社長とは良い取引を成立させてきました。
しかし、リーマンショックの際、K社長がその時拠出していた資金は一瞬にして全額損失となってしまい、1円も戻る事はありませんでした。
案件を精査し、拠出の可否を判断していた私は、K社長の損失を私が被る事を約束しました。私は、お金よりもK社長との信頼関係を優先しました。
それが、上記発言の「私が返すべきお金」という意味となります。
本来、サラリーマンの生涯年収を超えるような資金を損してしまったK社長は、私に恨みこそあっても会って話をする事など通常ありえません。
しかし、そこがK社長の懐の深いところで、「土居なら必ず返せる」と信じてくださり、怒りや恨みの気持ちを抑えて私とお付き合いを続けてくださいました。
それが、上記発言以前に私がK社長とお会いできた理由です。
そんなK社長が、再び自らの会社を売却するという大切なイベントについて、私にその仕事を依頼してくださったのです。
K社長の心の広さと私に対するK社長のご厚意に、心が震え、涙が出ました。