Pricelessな価値

本業であるM&Aのビジネスをしていますと、いつも「企業価値とは何ぞや」という事を考える日々です。

会社とは、社会の一部であり、社会の中で同じ目標や志を持った人たちが集まり、活動をする組織ですね。

そして、それぞれの会社は社会に属する人々に対して、「ありがとう」と言ってもらえるモノやサービスを提供し、提供された人々はその見返りとしてお金という価値を表象するものを提供します。

そして、企業価値とは結局、「ありがとう」をどの程度集められるかによって決まる、と考えています。

まあ、平たく言えば、社会貢献度を数字で表したのが企業価値という事になりますね。

 

そして、提供されたお金は、また次の「ありがとう」を提供してくれた人々へ提供され、そうしてお金という価値が世の中を巡っています。

ただし、お金という価値が100%一定の価値流動原則に従って巡っているわけではないですね。

例えば、税金は社会に属する人々みんなが得られる恩恵を提供するためだけではなく、社会的に不遇な立場にある人々を救ったり社会的価値のあるモノ・サービスを広めるために、価値流動の流れに逆らった「保護」や「補助」、「助成」などをします。

悪いモノ・サービスを提供しているのに、正しいモノ・サービスと同じように見せかけて、正しいモノ・サービスと同等のお金を搾取するといった、価値流動の原則を乱しているケースは山ほどあります。

脅迫による搾取、詐欺、窃盗などは、価値流動原則に逆らう最たるものですね。

 

視点を変えますと、「ボランティア活動」も価値流動原則とは相容れない分野となりますね。

これを、仮に「Pricelessな価値」と呼ぶことにします。

 

私は、今、趣味の世界においてこの「Pricelessな価値」の恩恵に預かっています。

それは、「社会人釣りクラブ」です。

 

今年の年初、「(魚を)自ら釣って、自ら捌き、自ら食す」事をプライベートの目標として立て、実践しています。

ただ、単独での習得は困難と考え、社会人釣りクラブに参加することとしました。

色々と釣りクラブを探しましたが、その中で1つだけ異彩を放つクラブを見つけました。

クラブ会員募集の副題に、「徹底的に教えます!」とあるにも関わらず、その見返りたる講習代もなければ会費もありません。

「いったい、このクラブの運営者は何を目的に人に釣りを教えてるんだろう?」と不思議でした。

 

そして、このクラブに入会してすぐ、一つの疑惑を感じました。

運営者から釣り道具の購入品リストを渡され、そのリストにある釣り道具を購入していく事を強く勧められました。

そして、購入すべき釣り具屋さんも指定されました。

「なるほど、このクラブは釣具屋さんが背景にあって、運営者は釣具屋さんからバックマージンでも取ってるのかな?」

しかし、それにしては運営者が言う通り、他の釣具屋さんやネット価格に比べて確かに最安値レベルで釣り具が購入できます。

バックマージンをとれる余地など、とても考えにくいのです。

 

この釣りクラブに所属したのは2016年1月初旬ですから、すでに5か月が経過しました。

今では、なぜこのクラブの運営者が無償で釣りを教えているのか、理解できるようになってきました。

そして、「何か裏があるのでは?」と思った自分を、恥ずかしく思うようになりました。

運営者はまだ年齢が30代で私より10歳ほど若いのですが、深場釣り(水深の深いところに住む釣魚の釣り)をこよなく愛しています。

ところが、深場釣りに行くと分かりますが、深場釣りは比較的釣りのベテランが多く、様々な釣りを経験してきて最後にたどり着く釣りの一種なのです。

したがって、深場釣りをしている釣り人は年齢の高い方が必然的に多くなってきます。

運営者は子供のころから釣りを趣味としていて、若くして深場釣りにどっぷりとハマったものの、同世代の釣り人が極端に少ないのです。

そこで、釣りクラブを立ち上げ、「同世代の仲間を集め、無償でもいいから深場釣りを教えて、一緒に深場釣りをしたい」というのが、真の目的なのだと思います。

それにしては、深場だけではなく、様々な船釣りを無償で教えてくれています。

 

運営者が、魚種の選択、釣行日程の調整、参加者募集、船宿予約の一連の流れを全て行います。

釣行においては、事前に、必要なタックル(竿、リールなど)、仕掛け、船釣り用具(船バッグ、ハサミなど)、釣りの服装等について、しっかりレクチャーしてくれます。

実際の釣行においては、船宿でのマナーや手続き等についても、事前にちゃんとレクチャーしてくれます。

実釣においては、釣り方から仕掛けの取り込み方、釣った魚をすぐ絞めて鮮度を保つ方法、自宅への持ち帰り方法まで、漏らさずレクチャーしてくれます。

 

これらの一連の学習を商業ベースで習おうと思ったら、結構な費用が掛かる事でしょうね。

しかし、これら全て、タダなんです。

運営者の思いだけで、運営されているのです。

 

こんなことって、よくあるんでしょうか?

金融に近い世界で生きてきた私としては、決してない世界です。

多分、一般的に考えても、こんな世界は珍しいのではないでしょうか?

 

僕は、takeだけの世界はどうも馴染みませんから、自分なりにgiveを考えて実行しています。

 

でも、お金という価値を通過しない「Pricelessな価値」を提供する世界、それこそが理想的な人間界で、お互いに提供できるものを提供できる範囲で提供しながら、その中でバランスが取れていたら、こんな気持ち良い事はありません。

 

ただ、自らgiveから始める事、なかなかできませんよね。

まさに、Pricelessな価値の世界。

そんな機会をいただいた社会人釣りクラブの存在を、今、とっても貴重に感じている次第です。